原稿料が支払われなかった話と、いま私が進めていること

フリーランスの自衛術

小さな未払いが残した、大きな痛み。
泣き寝入りしないための、ひとつの記録。

フリーランスという働き方は、会社勤めとは違って、
「仕事」として認識されにくいところがあるように思います。
ときには、趣味の延長のように見られているのではないかと感じることさえあります。

けれど実際は、成果物がすべての、とてもシビアな世界。
発注側の目的に合わせて内容を整え、
求められるクオリティとスケジュールに合わせて納品する。

たとえ少額の案件であっても、
その裏には、他の仕事との調整や、経験に裏打ちされた判断、
そして時間を確保するための努力が詰まっているのです。

本来、仕事として軽んじられる要素など無いはずなのに、
それでも軽んじる人たちがいるのも事実です。

この記事では、私が実際に原稿料の未払いにあったこと、
そして現在進行形で行っている対処について書いていきます。

原稿料不払いは“永遠のテーマ”なのか

原稿料未払いについて検索していると、
「小さな出版社や編プロではよくあるトラブル」
といった記述を目にすることがあります。

けれど、私が勤めていた小さな編集プロダクションでは、
そんなことは一度もありませんでした。

フリーのカメラマンやライターに依頼するなら、
「その人の一カ月の稼ぎまで視野に入れなさい」
と教えられていましたし、
過去の企画で撮りおろしていただいたネガやポジでさえ、
使用許可の連絡、クレジット記載、使用料の支払いは“当たり前”のことでした。

そうした姿勢も含めて、編集の仕事なのだと教わってきました。

だからこそ、
原稿料未払いにしても、著作権侵害にしても、
そこには 知識のなさ意識の低さ があるのだと思います。

出版や編集に関わるのであれば、
著作権について一度は学び、
常に注意を払うのは当然のことです。

それなのに、業界内外で
「あるある」「仕方ない」「よくある話」
という空気が広がってしまうと、
“原稿=心”が軽んじられ、
誰かの大切な仕事が傷つけられてしまう。

そんな状態を“永遠のテーマ”として放置してはいけない。

契約書なし、はどちらの責任?

原稿料未払いの話になると、
「契約書を交わしていないなら仕方ない」
「契約書がないなら証明できない」
そんな言葉を目にすることがあります。

けれど、契約書の作成は本来、発注側の義務。
フリーランス側が“契約書を作らなかったから悪い”という話ではありません。

特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、
給付の内容、報酬の額等を書面または電磁的方法により明示しなければならない。[第3条]
※ 従業員を使用していない事業者が特定受託事業者に対し業務委託を行うときも同様。

引用:厚生労働省 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)概要 

令和5年に成立・公布された、いわゆる「フリーランス保護法」でも、
このように明確に定められています。

この「概要」には、これまで“あるある”として暗黙の裡にスルーされてきた
フリーランスの業務委託に関する課題が凝縮されているように思います。
一度目を通しておくと、立場を守るための知識として役立つはずです。

フリーランス保護法は、動画やイラスト入りの資料などでも
わかりやすく解説されているので、そちらもおすすめです。

仕事の依頼があり、内容と金額が合意され、
納品物を受け取っている時点で、契約はすでに成立しています。
メールやメッセージのやり取りも、立派な証拠になります。

契約書がないことを理由に、
支払いを先延ばしにしたり、支払いをしなかったり、責任を曖昧にしたりするのは、
金額がどうであれ、企画の規模がどうであれ、法的に許されることではないのです。

言い訳をすればするほど“証拠”が積み重なる

原稿料の支払いが遅れていることについて連絡をすると、
相手からはさまざまな理由や事情が返ってきました。

けれど、その「言い訳」こそが、ひとつひとつ“証拠”になっていきます。
支払いが遅れている事実を認めていること。
支払う意思があると自ら書いていること。
いつまでに支払うと言ったのに、守られていないこと。
そのすべてが、時系列で積み重なっていきます。

フリーランスの仕事は、どうしても「言った・言わない」になりがちですが、
メールやメッセージのやり取りが残っているだけで、状況は大きく変わります。
相手がどんな理由を述べたとしても、
その連絡自体が“支払い義務を認めている証拠”になるからです。

とはいえ、原稿料の支払いについて連絡を入れること自体に、
とても高い心理的ハードルがあります。

「こんな少額の原稿料をしつこく請求してもいいのだろうか」
「口約束だったから仕方ないのかな」
「わたしの原稿に価値がないから支払われないのかもしれない」

そんなふうに、自分を責めてしまうこともある。

言い訳をひとつひとつ目にするのも、正直ストレスです。
どんな言い訳でも、「あなたの出したものなんて価値がない」と
暗に言われているように感じてしまうから。

だけど、どんなことを言われても、これだけは忘れないでください。
原稿を発注して、受け取って、利用して、報酬を支払わないほうが悪い。

どんなに穏便に語ろうとしても、「悪いものは悪い」。

今回のわたしへの未払いの原稿料は、10万円にも満たない金額です。
それでも、私はいま、少額訴訟の準備をしています。

原稿料発生から1年以上が経ち、
これまで数回の催促メール、そして内容証明で督促状も送付しました。

「たった数万円で面倒くさい」と思うかもしれません。
けれど、数万円の報酬の仕事が、本当に“数万円の価値”かどうかは、
誰にも決められるものではありません。

それに、訴えを起こす準備をすることで、
自分の対応への反省点や改善点も見えてきます。

仕事は、振り返りが重要。
感情の問題もありますが、ひとつひとつの仕事に区切りをつけるためにも、
少額訴訟は有効な手段だと私は思います。

少額訴訟を準備中

少額訴訟は、1回で結論が出る裁判手続であり、
弁護士に依頼せずに自分で行うこともできます。
「たった数万円で裁判なんて大げさだ」と思われるかもしれませんが、
金額の大小は関係ありません。
約束された対価が支払われないという事実こそが、問題の本質だからです。

ただし、準備がなかなか進まないのもまた事実です。

感情を吐露してしまえば、本当にしんどい。悲しい。
とくに今回の原稿は、家族をはじめ、たくさんの方々の思いや歴史を込めたもの。
それが軽んじられたようで、本当に苦しくなる瞬間もあります。

それでも、進められるのは自分しかいない。

……ここに書かせてもらえて、よかった。

ここまで読んでくださった方がいたなら、ありがとうございます。

そして、少額訴訟の準備を進める中で、「フリーランス保護法」、そして「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を改めて読み返しました。


この法律が、フリーランスの現場でどんな意味を持つのか。次の記事で、経験者の視点から整理してみようと思います。

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